船山基紀オフィシャルウェブサイト -the official motoki funayama website- 最新の活動 プロフィール 作品インデックス ブログ

ブログ

« クラウス・フォアマン | メイン | ハイ・ボール »

石森楽器修理所

NHK総合「ブラタモリ」観ました。今回のテーマは「大久保」だったですね。
観ていましたら、なんだか見覚えのある路地が映りました。高橋管楽器です。
実はこの路地、昔は管楽器の修理店が2軒向かい合わせにお店を開いていて、管楽器をやっている方なら必ずといっていいほど知っている有名な路地なのです。

ちなみに私は高橋さんの向かいの「石森楽器修理所」のほう専門で、今回初めて高橋さんのほうを見せていただきましたが、懐かしいたたずまいは石森さんと全く一緒でしたね。石森楽器のほうはどうも引っ越しなさったようで、大きくなっていました。サイトには私の知っている石森楽器修理所の白黒写真がありました。懐かしいです。
http://www.ishimori-co.com/

この石森さんには数々の思い出があって、それは私の音楽との思い出にほぼシンクロしています。

初めて石森さんに行った時のことはよく覚えています。

私は中学校ブラスバンド部で初めてサキソフォーンに出会いました。
嬉しくて毎日夢中で練習していたのですが、どうにもこうにもDの音になると息が苦しくなる。無理して大きな音を出すとプとベを一緒に発音したような音になる。でもこれは自分が悪いと楽器のくわえ方を治したり、息の量を調節してみたり、でもプベは直らない。思いあまって顧問のM先生(音楽の先生)に訴えたら、「あ、こりゃタンポが破れとるわ。」と一言。

その当時の区立中の備品の楽器なんて相当ひどかったから、直そうと思ったら全員分直さなければいけなかったはずだが、壊れているのに気がつかない子、壊れている事に気づいているが自分の練習が足りないからだとひたすら練習する子などはそのままに、キーのスプリングが折れてどうしても「星条旗よ永遠なれ」が出来ないと言い張る(言い張ったんじゃないね、本当に無理だもん)ピッコロのH先輩と、つば抜きのコルクが腐って空気が抜けているトロンボーンのYとタンポがだめな僕のアルトサックスとぴかぴかのマイフルート(その当時でマイフルート!)を持っていて、修理なんか縁がなく、ただみんなが行くというのでついていくことになったA子、引率のM先生計5名で、石森目指して東中野から神田川沿いに、ロッテ工場脇、小滝橋、大久保駅と歩きましたね。私はアルトサックスを持っていたから一番重くて(トロンボーンて意外に軽いんです)でもそんなことA子に悟られたくなく、学生服の中は汗びっしょり。手はパンパンになり、石森についた頃には指がCの字になったまま。

でもなぜかこの道中はものすごく楽しくて、それは多少なりともA子がついてきたことにも関係があり、徒歩の長い道のりの疲れも相まって何でもない音楽の話をしている時も、やたらエンドルフィンが分泌されていたに違いないハイテンションだったようで、このことは今でも心に残っています。

さて石森さんのところは本当に普通の民家でガラス戸をがらっと開けると、眼光鋭い職人さんが一斉にこちらを一瞥してきました。思わず中学生、視線が足下に・・・と思いきやA子だけはキッチリとメンチ切り返してたなあ。

先生が修理の依頼をしていると、いきなり奥で職人さんがテナーサックスを「グ、ゴ、ゴ、ゴ !」(そう聞こえたんです)試奏し始めた。最終チェックだったんでしょう。「グ、ゴ、ゴ、ゴ !」の次はガアガアガアガと下降スケール、上向スケールと吹きまくったのです。

それまでプロというか大人の人が吹くサックスは航空自衛隊音楽隊の夏の一日講習会でしか聞いたことがなかった私たちは、この職人さんの音に度肝を抜かれて、全員唖然としてぽかんと口あけて見ていました。「すっげー、チャーリー・パーカーかグレン・ミラーオーケストラ、はたまたビリーボーン楽団みたいだあ・・・。」その頃私はブラスに夢中で、ジャズとかポップスのサックスといったら、こればかりしか思い浮かばなかったのです。

その全員金縛り状態のなか、ふとA子のポニーテールの横顔を盗み見た私は、A子の瞳にチカッと浮かんだ光は見逃しませんでしたね。
「これだ!これっきゃない!」オシッコちびりそうになりながら、心の中で叫んだものでした。

そう大久保のこの地から、私の音楽遍歴は始まったようなものです。

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

About

2010年02月05日 14:09に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「クラウス・フォアマン」です。

次の投稿は「ハイ・ボール」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。

Copyright © 2007 Motoki Funayama All rights reserved.